水の硬度と洗剤の魚毒性

石川 貞二

二十数年前、私の勤め先(鳥羽市水産研究所)に滋賀大学の鈴木紀雄教授(1999年夏ご逝去)から電話がありました。当時、私はウニの発生(受精した卵が孵化して親と同じ形になる過程)で、合成洗剤の急性毒性を調べていて、石けんはほとんど無害と発表していました。そのころ先生はイトミミズを使って、洗剤の毒性を調べようとしておられたのですが、「合成洗剤より石けんの方が毒性が強いという結果が出てしまうのはどうしてだろう」という質問でした。

私が「もしかして先生は蒸留水を使って実験しておられませんか?」と聞くとその通りという返事でした。このころ(1975年)東京都の公害研究所から、蒸留水では石けんの魚毒性が強く出るという調査結果(昭和50年 合成洗剤に関する研究報告)が発表されていたこともあり、「塩素を抜いた水道水を使って実験されたらどうでしょうか」とお伝えしておいたら、その後、「水道水でやってみたら、合成洗剤の方が相当悪いという結果が出ました」と報告をいただきました。

1974年に花王の富山新一という人が、日本水産学会誌に発表した報告によると、ヒメダカのTLm24時間(実験動物の半分が24時間のうちに死ぬ資料の濃度:24時間半数致死濃度)は石けんで11ppmで、他の合成洗剤と同等かそれ以上有害であることになっています。あまりにおかしいので、花王の研究所の別の人に会う機会があったとき、「このデータはどう考えてもおかしいから調べてください」と頼んでおいたところ、花王にもまともな人がいて、「この実験は蒸留水でしていて、水道水で実験するとTLm24時間は130ppmになって、他の合成洗剤よりずいぶん毒性は小さくなります」という返事をもらいました。

日本の水道水は、水1リットルのなかの炭酸カルシウムが、東京36mg、大阪24mg、札幌24mgと『極めて軟水(0~40)』にランク付けされます。ついでにこのランクを書いておきます。水1Lのなかの炭酸カルシウムのmg数によって以下のようになります。

0~40 極めて軟水
40~80 軟水
80~120 やや軟水
120~180 やや硬水
180~300 硬水
300以上 極めて硬水

つまり日本の水道水は、極めて軟水なのです。カリフォルニアの168、オハイオの291などに比べれば、まさに文字どおり『極めて軟水』なのです。

※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。