【日本の石けん運動の歴史】毒性の研究

柳沢文正先生が研究された合成洗剤の毒性は、当然、人の健康に関するものでした。1982年に書かれた『洗剤とまれ・草の根研究20年』には、合成洗剤によって生ずる疾病として、

★合成洗剤に関係ある疾病

主婦湿疹・肝臓障害・悪性腫瘍・心筋梗塞・腎臓病・遺伝因子障害・循環器障害・スモン病・水俣病・奇形児

★合成洗剤の影響のあるものと考えられる疾病

自立神経失調症・消化器病・川崎病・ポックリ病・膠原病・ベーチェット病・イタイイタイ病・精神異常

をあげています。20年程前、既にこれだけの研究がされていたのです。ご自分の研究を始め、広く海外からも文献を集めた上での結果です。しかし合成洗剤メーカーも厚生省も認めようとはせず、御用学者を駆使して反論を展開します。

1965年に岩手医大の田中博士、1972年に三重大三上博士らによる合成洗剤の催奇形(胎児に先天異常を起こす)についての報告を受けて、厚生省は1976年、4大学(京都・広島・名古屋・三重)に『LASの催奇形に関する合同研究』を委嘱します。その結果、三重大学では先天異常が出たのに、他の3大学では異常が出なかったと言うことで、3月24日、班長の京都大学西村秀雄教授は私見で「催奇形なし」と発表します。新聞なども3対1で合成洗剤はシロとかき立てました。

5月23日、学者・研究者・消費者が、津に集まって「厚生省告発!抗議!糾弾!集会」を開きました。集会に先立って4大学に事情を確認し、完全に「洗剤はシロ説ではない」との回答要旨を集会で配付しました。その後西村教授は「純粋のLASでの実験は市販の合成洗剤とは違うはずだ」とする我々の言い分の一つに対して、ママレモンを使っての実験結果を発表し「妊娠したネズミの下半身を5%ママレモン溶液に浸けるような苛酷な実験をした結果、胎児の死亡は認めたが先天異常はなかった」と報告しています。これがメーカー側のいうノーベル賞級の学者の言うことか、と愕然としました。

先天異常と死亡とどっちがきついのでしょう。しかも催奇形性以外の毒性には触れることもなく、合成洗剤は完全に無害と言い切っています。

※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。