(1) 海洋観測

私は鳥羽市水産研究所の仕事として、20数年間毎週1回、鳥羽周辺海域の3定点で、水深5層(0,2,5,10,15m)の4項目(水温・塩分・COD・溶存酸素量)と透明度の測定を続けてきました。その結果から、この間の大雑把な推移は掴めましたし、これらが他に余り例の無い、貴重な観測記録であると自負もしています。しかしこれが正確な鳥羽の海の実態であるかと問われれば、答えは否です。

週1回くらいの観測では、実態を把握する事はとうてい不可能です。1度ある定点で、24時間ぶっ通しで、1時間おきに前述と同じ観測をしたことがあります。その時つくづく感じた事は、海洋環境は分単位で観測しなくては、正しい実態は掴めないだろうということでした。皆さんも海で泳いでいて、急に冷たい水塊にぶつかることがあると思います。

海洋の実態は時時刻刻と変化しています。それをたった数回の観測結果を見て、この位の合成洗剤の濃度では、生物に影響はないなどと断言するような学者がいるのには、あきれるどころか怒りを覚えます。「誰もが認めざるを得ない証拠となる科学的実証法」というのが、こんなデーターに基づいたものなら、噴飯物と言わざるを得ません。

更に、例えば表層水(先ほど0mと書きましたが)と言うのは、海洋学会では0から50cmの間の海水と決められていますが、せめて表面から1cmくらいの海水でないと、とても表層水とはいえません。油分や比重の軽いプランクトンなどは当然表層に浮いています。静かな海での界面活性剤も同じです。こう言ったことは、海岸に住み付いて毎日海と接していなくては、気が付かないでしょう。

何か開発が行われる前に、環境アセスメントというものがなされますが、あるアセスメントで行われた海洋調査なるものを見て、唖然としました。これは県も審査した上で公開されたものですが、春・夏・秋・冬の4回、相当なお金をかけて実施されたものでした。それが各季節に1日だけ観測しただけで、この海域はこうだと断定しているのです。漁業者が見て、「こんな馬鹿な」とあきれていました。そのデータが嘘だとはいいません。確かに、その時のその場所での観測結果としては正しいでしょう。しかし数時間後には、或いは10m離れた場所では、違った結果がでることもあるのです。

似たような事が、石けんと合成洗剤の魚毒の実験で(これは意図的に行われた事ですが)ありました。メダカの半数致死濃度が、石けんと合成洗剤でほとんど変わらない、中には石けんより毒性の低い合成洗剤さえあるという報告が、日本水産学会誌に出たことがあります。花王の生活科学研究所所長のものでした。これは後で石けんを溶かすのに蒸留水を使っていたことが判明しました。水道水を使っていたら、石けんの毒性は10分の1以上低くなる事を知っていて、敢えて蒸留水の結果だけ、発表しているのです。実験結果のデータには嘘は無いにしても、発表の仕方に問題があるわけです。天然に蒸留水など存在しません。

科学的と思われている文献に、落とし穴があるのです。私が現場主義を大事にしたいのは、こういうことなのです。

※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。