【日本の石けん運動の歴史】政府の対応(3)

合成洗剤がこんなにも頑固にのさばっている大きな原因の一つに、欧米で合成洗剤の追放運動が起きないということがあります。日本では嫌煙権運動と合成洗剤追放運動は、ほとんど同時に起こりました。そして今や嫌煙権運動は完全に近い市民権を手に入れています。一方、合成洗剤追放運動は、遅々として進まないどころか、むしろ一頃よりも衰退しているように思えます。タバコの問題は欧米の方が断然進んでいます。ことタバコに関しては、みっともないほど日本は完全な後進国です。でも欧米に追い付け追い越せという、コンプレックスがいつも日本人の心の中にあるのでしょう。

欧米で別に悪いと言っていないものを、何で日本だけが悪いと言うのかなどと言う人もいますが、当然、欧米でも悪いと言っている人達がいます。例えば、ラルフネーダーとかグリーンピースの人達は、合成洗剤は悪いと言っています。ニューヨークタイムズの記者が、鳥羽の神島に取材に来たときにこのことを言ったら、「あんなやつらの言うことを聞いていたら生きていけない」と言っていました。ちょうど『買ってはいけない』という本を信じたら生きて行けないと言う人達と同じです。欧米で合成洗剤が止められないのは、水が悪いからです。一般に欧米の水は硬水が多く、石けんは使いにくいのです。

昔のフランス映画の洗濯場面などは、湯気がもうもうとしていました。高温のお湯を使わないと、石けんで洗濯はできないのです。そこへ硬水でも使える合成洗剤が登場したのですから、多少の危険を冒してでも合成洗剤を止める訳にはいかないのです。環境のことさえ考えなければ、自動洗濯機・自動皿洗い器などの発達で、人体への影響は問題ないという訳です。歴史とは少し離れてしまいましたが、合成洗剤追放運動の足を引っ張っている大きな原因の一つだと思いますので、ちょっと脱線しました。

歴史的に見て、合成洗剤追放運動を阻害してきた大きな原因は、政府と企業と御用学者の密着でしょう。合成洗剤メーカーの金にあかした、なりふりかまわぬ宣伝、政治家・官僚・御用学者への献金・賄賂。前述したように、柳沢文正先生に5億円もってきたという企業。1976年、先生は著書の中で言っています。「この15年間、私が身近にみたものは、人間の幸福や自然環境の保護よりも企業の利益の方が優先するという現実と、一部の官界及び外郭団体のギマンにみちたデタラメな態度、そして多くのマスコミがこれに屈し、真実が国民に知らされないままに・・・」詳しくは次回で。

※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。