「すすぎ1回」はホントに大丈夫?

最近合成洗剤を中心に「すすぎ1回」を謳う製品が主流になっており、あたかもすすぎが1回だけで、洗剤の成分が洗い流せるかのような表現になっています。
すすぎが1回だけで衣類への残留なく洗い流せているのなら、節水・節電になるのでお財布に優しくエコなことですが、本当にそうなのでしょうか?

洗濯と洗剤の残留

洗剤の残留についての詳細な研究は非常に少なく、当サイトで把握できているのは以下の2つの研究のみですが、いずれの研究もすすぎの難しさを指摘しています。

(1)「すゝぎに関する研究」1956年(市原栄子、松本芳枝、矢部章彦:油化学 第5巻 第3号)
ここでは、温度の上昇とともにすすぎ率が増すが、60℃の温水を使っても、「モメンのすゝぎ率は17.9%にすぎない」、また、「洗浄後の洗剤の残存率の高い順にあげれば、羊毛、ビニロン、絹、アセテート、モメン、アミランとなる」と報告しています。

(2)「洗濯による洗剤残留とその移染」1983年(群馬大学教育学部家政学研究室堀内雅子氏)
ここでは「すすぎを行っても洗剤の残留は免れないものであるし、移染も高率で起こることから考えて、もし合成洗剤を使用するならすすぎを充分に行うべきであるが、肌の弱い乳幼児のいる家庭ではできることなら石けんを使用した方がよいと考えた」と結論づけています。

上記の研究は非常に詳しく貴重なデータが示されていますが、データ自体が古く実験材料の界面活性剤の種類が限られているため、現在の合成洗剤のすすぎの問題にそのまま当てはめるには無理があります。

比較的新しいすすぎの研究として、日本家庭科教育学会での福井典代氏による「合成洗剤のすすぎ性能に関する基礎的研究とその教材化」(公開日2011/10/11)があります。同研究では、水の表面張力の測定によって、合成洗剤のすすぎ水が水の表面張力に近い値となったとして、十分に洗剤成分が除去されていると結論付けています。⇒ 詳しくはこちら

「水の表面張力に近い値となった」ということは、満足な洗浄効果を得るための界面活性剤の濃度[臨界ミセル濃度(CMC)]以下になったということにすぎません。また、合成洗剤には主成分の界面活性剤以外にキレート剤や水軟化剤、再汚染防止剤、香料など多くの添加剤が含まれています。界面活性剤は表面張力を低下させる働きをしますが、水の表面張力の測定だけで、「十分に洗剤成分が除去されている」との結論には大いに疑問があります。

したがって、繊維の中にしっかりと染みこむ界面活性剤を、すすぎ1回のみで洗い流すことは非常に困難なことだと考えられます。合成洗剤などの界面活性剤をすすぎ1回で洗い終えた洗濯物には、洗い流し切れない洗剤成分が残留していることを意味します。

洗剤の残留テスト

ご家庭で簡単にできる洗剤の残留テストとして、本当にすすげているかを簡単に見分ける方法として、過炭酸ナトリウム(酸素系漂白剤)を使って検証しました。

過炭酸ナトリウムは洗濯槽の掃除にも使われますが、パナソニックのドラム式洗濯機の取扱説明書によれば、「酸素系・界面活性剤入りのクリーナーは、槽洗浄時の泡立ちがよすぎてしまい、洗濯機が異常検知をおこし、排水する恐れがあります。」との注意書きがあるように、過炭酸ナトリウムは界面活性剤や汚れに反応し、激しく発泡します。したがって、洗濯後に洗剤が残留していなければ、過炭酸ナトリウムは発泡などの反応を示さないはずです。

テストの結果、合成洗剤は「すすぎ1回」どころか、3回すすいでも洗濯液はきれいにならず、十分にすすげていないことがわかりました。

「すすぎ1回」を謳う合成洗剤と同じような使い方のできる「セスキプラス」と、参考のため粉石鹸(暁ローブを使用)のテストもしました。

「セスキプラス」は注水すすぎ1回で、粉石鹸は注水すすぎ2回で洗濯をし、いずれも洗濯後の発泡はありませんでした。

なお、粉石鹸については、無添剤の粉石鹸や液体石鹸ではなく、アルカリ緩衝剤(炭酸塩)が配合された粉石鹸を使用しました。無添剤の石鹸による洗濯の問題点は弊社サイトの「純石鹸(無添剤石鹸)の問題点」の項目をご参照下さい。

ご家庭で簡単にできるテストですが、洗濯槽が汚れたままですと、正しくテストできないだけでなく、洗濯槽の汚れが洗濯物に付着して大変なことになりますのでご注意下さい。

検証方法

  • 縦型全自動洗濯機(東芝 AW-90SDM)にて水量68L、水温30℃、注水すすぎで洗濯
  • 過炭酸ナトリウムが洗濯槽の汚れに反応しないよう、メーカー推奨の「T-W1 90004003塩素系 東芝 洗濯槽クリーナー」で洗濯槽を掃除し、さらに40℃のお湯で過炭酸ナトリウムが反応しないことを確認
  • 合成洗剤は「アリエール・パワージェルボール」「ウルトラアタックNeo」「スーパーNANOX」等を使用
  • 過炭酸ナトリウムは「暁石鹸 酸素系漂白剤」を毎回100g使用
  • 洗濯物は一般家庭を想定し綿や化繊の衣類を使用
  • 洗剤濃度はメーカー指示濃度