ニセ科学と石けんの諸問題 -洗濯用「無添剤」石けんの問題点-

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洗濯用「無添剤」石けんの問題点

一般家庭の洗濯機で無添剤粉石けん(石けん分のみ、炭酸塩などアルカリ剤無添加の粉石けん)を使い洗濯をするということは、多くのリスクを抱えることになります。

「無添剤だから高品質」・「無添剤だから安心」など「無添加」の持つ良いイメージを盾に、多くのメーカーで発売されている無添剤粉石けんですが、洗濯とは汚れを効率よく落とすものでなければ意味がなく、そのためには炭酸塩(炭酸ソーダ)などのアルカリ助剤の添加が不可欠です。

したがって、無添剤粉石けんでの洗濯は洗浄の科学とは無縁なニセ科学と言わざるを得ません。

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ここでは、洗濯用「無添剤」石けんの抱えるリスクや問題点を検証したいと思います。

(1)「無添剤なら大丈夫」という勘違い

「無添剤・無添加=安全で高品質」というイメージは多くの人に受け入れられています。好ましくない添加物が市場に溢れている現在、「無添加を買う」のも商品によっては正しい選択でしょう。

しかしそれに商機を見いだした一部のメーカーやマスコミが無添加・無添剤こそ高品質の証と吹聴した結果、安全かつ必要な物質を添加した製品までもが紛いもの扱いされるようになってしまいました。

洗濯用粉石けんもこの例に漏れず、アルカリ剤(炭酸塩やケイ酸塩)添加の粉石けんを無闇に恐がって「何となく安全そう」というだけで無添剤粉石けんを選ぶ人が増えるという困った現象が起きています。

キレート剤(金属封鎖剤)・エデト酸(変質防止剤)・蛍光増白剤など人体や環境に心配な面の多い添加剤は配合を控えるべきですが、昔から調理や洗濯に使われ、製品安全データシート(※1)でも通常の使用では人体に危害を及ぼす心配はないと明記されているアルカリ剤まで恐れる必要は全くありません。

(※1) 製品安全データシート: 化学物質を適切に取り扱うため、その物質の健康・環境面への影響に関する情報や安全な取り扱いを確保するために必要な全ての情報を書面化したもの。MSDS(Material Safety Data Sheet)とも呼ばれる。

無添剤石けんとは(JIS規格)・・・

  1. 純石けん分が粉の場合94%以上、固形の場合95%以上で(99%である必要はない)無添加である
  2. 「家庭用品品質表示法に基づく表示」の「品名」欄に「洗濯用石けん」と表示されている
  3. 炭酸塩やケイ酸塩が洗浄補助剤として添加されていない

アルカリ剤とは・・・

粉石けんに添加されるアルカリ剤は「炭酸塩(炭酸ソーダ)」「ケイ酸塩」などが一般的です。特に無水(水分を含まない)の炭酸塩は周りの水分を奪う性質があるので粉石けんをサラサラに保つ効果もあり、好んで使われます。研磨剤や消臭剤として人気の重曹は石けんよりpHが低く、混ぜても石けんの洗浄力を下げるだけなので添加剤として使われることはほとんどありません。
詳しくは 石鹸百科・知識館「これだけは知っておきたいアルカリ剤の特性」をご参照ください。

(2)「無添剤」粉石けんはなぜ使いにくい?

石けんは世界最古の化学製品で、人との長い共存の歴史によって安全性が確認されている数少ない化学物質のひとつとされています。ただ、石けんには他の界面活性剤と大きく違う特徴がいくつかあり、それを理解した上で使えば肌への優しさと素晴らしい洗浄力を堪能できますが、間違った認識で使うと様々なトラブルが待っています。

無添剤粉石けんでのトラブルとは具体的には衣類の黄ばみ・臭い・汚れ落ちの悪さなどですが、それに耐えきれなくなった多くの人が合成洗剤に舞い戻り、以前より一層石けんから離れてしまうという残念なケースも目立ちます。では、なぜアルカリ剤無添加の粉石けんではトラブルが起きやすいのか。その理由を以下に述べてゆきます。

1.洗濯液が酸性に傾きやすい

石けんの水溶液は常温でpH10前後のアルカリ性です。アルカリ性の環境下で洗浄力を発揮する石けんは酸に出会うと中和されて洗浄力がなくなるという特徴を持っています。

例えば衣類に付いた皮脂汚れ(蛋白質や油脂)は石けんで洗われている内に分解され弱酸性の脂肪酸となり、その酸にアルカリは中和されて石けん液は次第に酸性に傾き洗う力を失います。

しかし、pH範囲を最適な洗浄条件pH9.010.5(※2)に保つ働き(アルカリ緩衝作用)をする炭酸塩やケイ酸塩などがあらかじめ石けんに配合されていれば、極端な洗浄力低下は起こりません。

しかし、無添剤の石けんではアルカリ緩衝作用は期待できないので洗濯液は容易に酸性に傾き、汚れ落ちが悪くなってしまいます。

(※2) 奥山春彦・皆川基編著「洗剤・洗浄の事典」朝倉書店より

浴用などの化粧石けんではこの弱点が利点に・・・

「しかし、化粧石けんにおいては、この弱点がかえって利点ともなっている。皮膚は弱い酸性物質で覆われているので、石けんの脱脂力は適当に緩和され、遊離した脂肪酸が皮膚の保護に役立つのである。強い脱脂洗浄力を特色とする合成洗剤が広く普及している今日も、皮膚を対象とする洗浄には石けんがなお優位を保っている理由の一つである。」  

辻薦著「洗浄と洗剤」地人書館より

2.石けんカスができやすい

石けんはミネラルに弱いという特徴も持っています。水中のミネラル成分(カルシウム、マグネシウムなど。硬度成分ともいう)に石けんが出会うと、石けんは洗浄力を持たない金属石けん(石けんカス)に変化します。その形状は白く細かい粉末状で、洗濯のすすぎ水を白く濁らせたり、洗い上がった洗濯物を白く汚したりします。

また、無添剤石けんでの洗濯では酸性石けん(石けんカス)の生成も増えます。酸性石けんとは油汚れのひどいものを石けん不足の状態で洗ったときなどにできる水に溶けないベタベタした物質のことで、これが付着すると衣類は黄ばんで臭くなり、洗濯槽に残るとカビの栄養源ともなります。

これら石けんカスはアルカリ剤を併用することで大幅に生成を減らすことができますが、無添剤粉石けんではその効果は望めません。石けんを増量して石けんカスに対応させることもある程度可能ですが、それは不経済であると同時に次に述べるような環境への負荷の増大につながります。

参考:石鹸百科・知識館「石鹸カスとは」

3.環境に負担が大きい

石けんは動植物の油から作られる有機物なので、環境中に放出されると微生物による生分解が必要ですが、無添剤粉石けんを毎日の洗濯に使うと、アルカリ剤の不在を補うために増量された石けんまでが下水に流れ込みます。生分解が早く、石けんカスなどは水生生物の餌になるなど環境に優しいと言われる石けんですが、それでも有機物には違いなく、使用量はできるだけ少ない方がよいのです。

では、アルカリ剤入り粉石けんは無添剤のものより環境にかける負担が少ないのか。答はイエスです。まず、アルカリ剤にはそれ自体にある程度の洗浄力があるため使用する石けんの絶対量が減ります。それに加えてアルカリ剤が無機物だということも見逃せません。無機物とは自然界にそのままの形で存在する物質のことで、微生物による生分解が不要です。

だからといって無制限にたれ流してよい訳ではありませんが、環境に与える負荷が有機物より遙かに少ないことは確かです。

4.不経済である

無添剤粉石けんで洗濯すると、前述のような理由から使用量がどうしても多くなります。もともと無添剤石けんは炭酸塩入りの製品よりも割高な上、それを更に沢山使わねばならないので洗濯にかかる費用が跳ね上がります。洗濯用石けんはいわゆる高額商品ではないのですが、それでも費用に見合った効果が見込めないものに無駄金を使うことはありません。

(3) それでも無添剤粉石けんが売れる理由

ではなぜ、そのように欠点の多い製品がこれほど多くのメーカーで作られ、売られ続けているのでしょう。ある大手石けんメーカーに質問したところ、このような答が返ってきました。

「炭酸塩入り粉石けんの洗浄力の方が優れているのは重々承知です。ただ、多くのお客様から無添剤が欲しいと言われれば、メーカーとしてはやはり作らない訳にはゆきません」

つまり、メーカーの多くは「お客様のニーズに応えて」いるというわけです。それを「無添剤は良いモノだ、品質が高い」と誤解して買う人が増え、需要があるからとメーカーは生産し……まるで悪循環の見本のような話です。

「お客様ニーズ」をメーカーが意識するのは当然ですが、それが消費者の石けん離れを招き、自らの首を絞めることになれば本末転倒です。同時に消費者も、本当に良いものを選ぶ目を養い、そのような製品を買い支えていく心意気を持たなければいけません。利益に囚われず、煽りに惑わされず、良いものをじっくり育てることが大切です。

石けんに関しても、作り手と使い手双方がこのような意識を持たなければならない時期がもう来ているのです。

(4) おわりに

いかがでしょう。無添剤粉石けんという製品がどういうものなのか、お分かりいただけたでしょうか。洗濯用無添剤石けんはあくまでウール・絹洗い用の洗浄剤として使用すべきです。「どんなときでも無添剤が最高」と信じる方が楽ではありますが、その代償として洗濯物の黄ばみと臭いを我慢するのと、ほんの少し努力して正しい石けんの使い方を身につけてトラブルと縁を切るのと、どちらがより快適かは言うまでもないことでしょう。

補足

洗濯用液体石けんについて・・・

洗濯用液体石けんの多くがアルカリ剤無添加か、添加されていてもその量はごく僅かです(アルカリ剤を液体石けんに混ぜると全体がゲル状に固まるため)。液体は手軽に使えて便利なようですが、無添剤(に近い)であるためこれまで述べてきた無添剤石けんの欠点を全て備えています。従って通常の洗濯に使う場合は事前に炭酸塩などで洗濯液をアルカリ性にしておく、あるいはあくまでも粉石けんの補助として少量の使用に留めるなどの注意が必要です。

石けん洗濯後のpH値について・・・

石けんや大方の合成洗剤で洗濯したあとのすすぎ水は水道水よりほんの少しpHが上がります(アルカリ性に傾く)。その程度のアルカリで肌に影響がでることはほとんどありませんが、どうしても気になる場合はすすぎの最後にクエン酸や酢などを少量入れてpHを下げるとよいでしょう。

粉石けんを使った上手な洗濯方法は「達人洗濯講座」および動画をご覧ください。

「達人洗濯講座」
「動画版・石けん達人講座(洗濯編)」 

参考文献

奥山春彦・皆川基編著「洗剤・洗浄の事典」朝倉書店
井上勝也・彦田毅著「活性剤の科学」裳華房
花王生活文化研究所編「洗濯の科学」裳華房
藤井徹也著「洗う・その文化と石けん・洗剤」幸書房
辻薦著「洗浄と洗剤」地人書館

(2007年4月)

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