ニセ科学と石けんの諸問題 -重曹の科学と重曹電解水について-

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重曹洗濯について

重曹の洗浄性は「pHが低く、洗浄用アルカリ剤としての用途はうすい」 (※1) とされていますが、それは重曹がナトリウム化合物中で最も弱いアルカリであるためです。

石けんに重曹を併用するのは、弱い繊維を洗う場合に、粉石けんに配合されている炭酸塩をセスキ炭酸ソーダの形にし、pHを調整する、ということで昔から実際に行われていますが、洗浄に最適なpH範囲は9.0〜10.5(※2)であり、通常の洗濯において洗浄力を高める目的で微アルカリ性の重曹を併用することは意味がありません。

「(炭酸塩の)pHが高いため、弱い繊維を損傷したり、手を荒らす原因にもなる。そのため、家庭用の場合には、重炭酸ナトリウムを用いて、セスキ炭酸ナトリウムの形にし、pHを調整することも実際に行われている。」(※2)

セスキ炭酸ナトリウムは炭酸ナトリウムと重曹の複塩で、両者の中間的な性質を持っており、水に溶けやすく、水溶液はpH9.8(1%、25℃)の弱アルカリ性を示します。詳しくは下記をご参照ください。
石鹸百科・石鹸生活のアイテム事典「セスキ炭酸ソーダ(アルカリウォッシュ)」

**台所での石けんと重曹**

重曹と石けんを併用すると穏やかなクレンザーのようになり、合成洗剤から石けんに切り替えたときによく見られる食器のヌル付きをこすり落としたり、古い食器を洗うついでに磨き上げたいときなどに便利です。また、重曹のザラザラが滑り止めになって、洗っている最中に食器を落としにくくなる効果もあります。重曹によって石けんの洗浄力は落ちますが、このように目的によっては便利なこともあります。

通常の洗濯において汚れが最もよく落ちる洗浄液のpHは9.0〜10.5(※2)で、それより低いpH8.2である重曹だけで洗おうとしたり、石けんに混ぜたりするのは間違いです。ではなぜ、その間違いである重曹洗濯をしたがる人が増えているのでしょう。

どうやら、重曹ブームのきっかけとなり重曹愛用者のバイブル的存在である『魔法の粉 ベーキングソーダ(重曹)335の使い方』(ヴィッキー・ランスキー著 クリーン・プラネット・プロジェクト訳)という本にその原因があるようです。同著に

「ベーキングソーダは、水に溶けると、これらの金属イオンをはさみ込み(これを「キレート」といいます)、影響を減らすことで、水を柔らかくして理想的な「超軟水」の状態に近づけます。」

という記述が見られるからです。WHO(World Health Organization:世界保健機構)の飲料水水質ガイドラインには「軟水(硬度値0〜60未満)」、「中程度の軟水(硬度値60〜120未満)」という定義はありますが、「超軟水」というものはありません。

洗浄科学の代表的な文献である「洗剤通論」(※3)には「炭酸水素ナトリウムは硬水を軟化しない」と明記されれており、また「工業洗浄の技術」(※1)に記載されている表「各種無機ビルダーの性質」においても、炭酸水素ナトリウム(重曹)の「耐硬水性」は最低ランクです。

詳しくは「洗剤の添加剤(2):無機ビルダー」(横浜国立大学教育人間科学部 大矢勝)をご覧ください。

**ビルダー(助剤)とは**

それ自身は界面活性作用を持たないが、洗剤に配合されると洗浄力を著しく増強する物質。役割としては、アルカリ緩衝・硬度成分除去(水軟化)・重金属イオンの封鎖(キレート)・ミセル増強など。1つの物質で複数の作用をあわせ持っていることもある。

『魔法の粉 ベーキングソーダ(重曹)335の使い方』の著者であるコラムニストのランスキー氏は、寄せられた膨大な数の重曹利用法を同著にできるだけ多く収録したそうですが、その前書きで

「実をいうと私は、この本にあるおそろしくたくさんの使い方すべてを、実際にひとつずつ試してみたわけではありません。」

と正直に書いています。また「訳者あとがき」には以下のような一文があります。

「日本版の内容の科学的検討にあたっては、株式会社三浦研究所生活科学研究室、口腔力学研究会のみなさまに大変お世話になりました。」

株式会社三浦研究所生活科学研究室は平成17年に他社に吸収合併されましたが、その吸収先は三浦工業株式会社です。テレビCMでお馴染みの同社は、家庭用軟水器の販売戦略として「いくら硬度が低くても、家庭の水道水は硬水」と、水の硬度に関して偏った情報を発信し、日本の水道水が使いにくい悪い水であるかのように宣伝しています。

三浦研究所生活科学研究室は、そのような会社の息のかかった研究機関なのです。また「口腔力学研究会」 (※4) はネットで検索をしても、「波動治療」や「神霊学研究会」という言葉が絡んだサイトしか出てこず、重曹の「科学的検討」との関連性を見出すことはできませんでした。

要するに『魔法の粉 ベーキングソーダ(重曹)335の使い方』は、化学者ではない海外の一コラムニストが「皆さんの声」を集めた「重曹口コミ集」であり、洗浄や化学の専門家が正しい重曹の使用法を提案した実用書ではない、ということです。気軽に手に取れる重曹入門書としてなら同書は充分に価値がありますし、その中には役に立つアイデアも多く掲載されています。

ただ、日本とは環境が全く異なる国の口コミ本を化学の実践の場である家事のバイブルに祭り上げ、何でもそのやり方で通すことだけは止めておいた方が無難だと思われます。

(※1) 辻薦著「工業洗浄の技術」地人書館
(※2) 奥山春彦・皆川基編著「洗剤・洗浄の事典」朝倉書店
(※3) 阿部芳郎著 「洗剤通論」 近代編集社刊
(※4) 「口腔力学研究会」の会員の方から、同会は学術的な研究会であって、「波動治療」や「神霊学」とはまったく関係がないとの連絡をいただきましたので、ここにお知らせします。 (2012年3月)

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