(6) ウニと歯磨き

漁業協同組合に講演に行くと、よく水槽に大きな魚を何匹も入れてそこに合成洗剤を溶かし、魚が苦しんで暴れ回り、時には跳ねだしたりして死んでしまうという、些か残酷なデモンストレーションをやる事があります。ある時歯磨き剤にも合成洗剤が入っているから、安全ではないという話をしたら、すぐその場で水槽に大きな黒鯛を入れて持ってきて、歯磨き剤1本を全部絞り込みました。すぐに黒鯛が暴れだし、間もなく死んでしまったのを見て、さすがに皆驚きました。漁師というのは時々とてつもない事をしでかします。

歯磨き剤には2%まで界面活性剤を入れてもいいことになっています。これが有害ではないかと言う質問が、国会議員から政府に出されたことがあります。その時の政府の答弁は「歯磨き剤は一過性のもので、口に入って3分以内には吐き出されるので、健康には問題ない」と言うものでした。しかし実際に合成界面活性剤が含まれている歯磨き剤で歯を磨いた後、20回目の嗽水にまだ洗剤が残っているという実験があります。

ではどの位毒性があるのか、例によってウニの発生で調べてみました。「ウニが歯を磨くか!?」と言う馬鹿な反論は無視するしかありません。しかし歯磨き剤を海水に溶かすと、溶けない研磨剤(一見ガラスの細かい破片のように見える)が邪魔になって、顕微鏡で見難いのです。色々やっている内に、遠心分離機にかけて研磨剤を除去したら見やすくなったので、研磨剤を除去しないで実験した結果と比べてみて、差がない事を確認してから、本格的に実験を始めました。

ごく普通の市販の歯磨きと、いわゆる石けん歯磨きを数種類ずつ検査した結果、大雑把に言うと、100%の受精率が見られるのは、市販歯磨きでは0.05%、石けん歯磨きでは2%と、その毒性に40倍の差があります。ラウリル硫酸ナトリウムを含むコープ・ホワイトでは0.01%でやっと100%の受精率が得られ、石けん歯磨きに比べて200倍の毒性を示しました。1980年に合成洗剤問題研究会でこれを発表したら、フッ素入りのも調べるように頼まれ、翌年調べましたが、フッ素による影響は顕著ではありませんでした。これはフッ素の量が影響を与えない程度なのか、或いは界面活性剤その他の添加物の影響が、大き過ぎるためと考えられます。石けん歯磨きでも想像以上に悪かったのは、各種の添加剤が原因と考えられます。

私は半年に1回歯医者に行って、定期的に検査をしてもらっていますが、そこでは先生も助手の人も、歯ブラシで良く擦ることは大切だけど、歯磨き剤を使う必要は全くないとはっきり言い切ります。歯槽膿漏の時に自然塩を使うのは、理屈にかなっているそうですが、なにも付けないで丁寧にブラッシングすることが大事だと教えてくれます。ただ、歯が白くはなりません。

※このコーナーでは、石川貞二さんの文章をそのまま掲載しています。当「石鹸百科」とは異なる見解が含まれていることがあります。